第10回:各種作話メソッド

第10回:各種作話メソッド

By mogura

漫画ネーム

■優先順位■

ネームが出来ないというタイプの多くは、エンドマークが打てないタイプ。ゆえに、リニア・ネーム・メソッド(※)で勢いで作品の全体像を吐き出すのが有効です。これで、全体の30%ぐらいは、とりあえずネームを描けるようになります。

※リニア・ネーム・メソッドについては第8回第9回に詳しく説明していますが、簡単に言うと思いついたままを声に出し録音する手法です。

次に、話がいつまでも終わらないタイプ。これはラストシーンを先ず作って、そこから逆算して発端や中盤の展開を考えれば、だいたい解決します。中盤がドンドン膨らんで収拾がつかなくなるタイプは、長期連載向きではありますが。

中盤が長くなるタイプは、エピソードを1〜3に制限すれば、だいたい読み切りの尺に収まります。これで、20%ぐらいは問題が解決します。

次に問題になるのが、秀逸なアイデアが浮かばないタイプ。

これは、いくつかのメソッドがあります。

漫画以外の創作に刺激を受けるとか、日頃から思いついたアイデアを小まめにメモする癖を付けたり、古典作品のアイデアをアレンジする練習を繰り返したり、アイデアマンのブレーンや原作者を付けても良いでしょう。

 

■アイデア力■

ネーム力を上げる方法は、他にも幾つかあります。理論的な部分を固めて、自分のネームを整理するのも有効ですし、講座では各種練習方法で、地力を高めていきます。ひとつだけ具体的な方法論を書いておきます。

それは、「2シチュエーション作話メソッド」。

幾人かの同好の士がいれば良いのですが、誰かが前半のシチュエーションを出し、それに対して意外性のあるシチュエーションを別の人間が出し、それを掌編や短編に紡いでいく、討論型の作品作りです。

具体的には、「シャワーを浴びたら」という前半のシチュエーションを出されたら、「彼女を殺すつもり」とか「味噌汁にプチトマトを入れる」とか「猫を舐める」など、できるだけ突拍子もない組み合わせを考えます。

この方法で50個ほどもアイデアを出すと、2〜3個ぐらいは想像力を刺激するような組み合わせが生まれます。それを掌編や短編に広げる展開を考えればいいのです。これはあくまでも発想の訓練として行います。

 

■組み合わせる■

それができたら、今度は「〜たら」という前半のシチュエーションをさらに50個ほど考えて、先ほどの後半のシチュエーションと組み合わせを検討します。これで2500個の組み合わせができます。

大塚英志先生は、カードにそういう物語のキーワードを書き込んで、それを引いて物語の展開を考えるという手法を紹介されていましたが、自分の脳内にある言葉は、傾向やパターンが偏りがちです。

できるだけ趣味や得意分野の異なる人間同士でコレをやると、意外な言葉やシチュエーションが生まれて、自分にはない発想がもらえて、想像力が広がり、意外な組み合わせが生まれやすいです。

ただし、売れた後に著作権で揉めることがあります。

編集者と作家の打ち合わせも、そうやって駄話の中で、意外な組み合わせによるインスピレーションを生むのが大事。発想は別の部分から導かれることが多いので、「無用の用」とでも呼べる余裕が大事です。

 

■あきらめない心■

こうやって、
 ・デリヘルを呼んだら+元彼女
 ・私が愛した+平家蟹
・サンドイッチに+ペギミンH
・生まれ変わったら+ツタンカーメン
 ・転校生は+活断層
でもなんでも、アイデアを出すことが大事。最初のうちは質より量を重視してください。

大事なのは、こんなの思い浮かばないよと、白旗を最初から揚げないこと。出てきた組み合わせを、無理筋でもとりあえず考えてみることです。発想できないと確認することは、自分の苦手を知られて、無駄ではありません。

コツがつかめたら、前半と後半のシチュエーション合計100個をカードに書き出して、大塚英志先生の方式でランダムにシャッフルすれば、意外な組み合わせが出てくる可能性があり、一人で練習できます。

アイデアの参考に筒井康隆先生の『天狗の落とし文』を購入しても良いです。

 

■得手不得手を知る■

こういう鍛錬方法は、「ネオ三題噺メソッド」とか、「1行シチュエーション作話術」、「後日譚メソッド」、「稀人来訪譚メソッド」と、イロイロとあります。投稿者の得手不得手は千差万別ですから。詳しく知りたい方はネーム講座でお会いしましょう。

この他にも、そもそもその作家の得手不得手をどうやって見つけるかという、能力発掘のドリルと組み合わせて、適正を見つけるのが大事です。「自分はこれでヒット作をモノにした」と成功した方法論を押し付けるのは違います。

先頃亡くなられたさくらももこ先生は、漫画家を一度は諦め、春風亭小朝師匠に弟子入りして、落語家になろうとしていたそうです。ところが、大学の推薦に必要な作文で書いたエッセイが高く評価され、人生が変わったそうです。

エッセイの手法を漫画に持ち込み、エッセイ漫画で自分の子供時代をユーモラスに表現したことで、プロとして喰っていけるどころか、大ヒットをモノにされた訳で。その後、エッセイでも高い評価を得ておられましたね。

適性は自分では気づかないこともあります。

さて、ネームについてはこの10回でひと通り、基本的なことは書けました。次回からしばらくは、ネーム以外で投稿者が気になること・知りたいことをツラツラと書いてみたいと思います。