第05回:平均コマ数の話

第05回:平均コマ数の話

By mogura

漫画ネーム

■ケース・バイ・ケース■

話が前後しましたが、ネームの描き方についての具体的なポイントを書いていきます。第4回を飛ばして、第3回から続けて読んでいただければ、理解が早いでしょう。

さて、コマ割りに関して。3段割(3段組)のコマ割り用紙を自分は推奨していますが、「漫画は3段割が良いのか4段割が良いのか、どっちですか?」という質問を、よく受けます。

それは構成によって変わるとしか言えません。

まずは3段割でネームを切った上で全体のバランスを観て、適宜4段割に構成し直すのが良いでしょう。4段割から3段割だと、コマの上下が狭くなりすぎるので自分は推奨しませんが、やりやすいならどっちでも良いです。

 

■ジャンプの平均コマ数■

数年前の集計ですが、週刊少年ジャンプの1ページの平均コマ数は6コマ、セリフ数は10コマと集計した人がいます。大変な労作。もちろんコレは平均値で、4コマの作家も8コマの作家もいます。

 【倩 ジャンプ連載作品のコマ数・セリフ数まとめ】

 ただ、多くの漫画家が平均5コマから7コマのあたりに集中しています。小学館の新人コミック大賞のページでは、1ページ8コマを超えない方が良いとアドバイスさえしています。

 【小学館新人コミック大賞 まんが家養成講座】

 自分が推奨する3段割で見開きというネームの形式は、この平均6コマという数字とも合致します。つまりネーム用紙2ページで、完成原稿では1ページ分のネームを切る感覚ですね。

コマ割りを気にせず、頭に浮かぶシーンを書き留める感覚で。

いきなり完成度の高いネームを切る(描く)のではなく、まずはネームのネームを作るぐらいの心構えで書き出すのが良いでしょう。トッププロではないのですから。

 

■手塚治虫の平均コマ数■

もっとも、昔の漫画(昭和の時代の漫画、特に40年代)はやたらと細かくコマを割っていた印象がありますし、4段割どころかもっと細かい漫画もあったような印象です。

そこで、昭和24年(1949年)に発表された、手塚治虫先生の『メトロポリス』という作品を開いてみると、ほとんどのページが3段割か4段割で、意外とコマが大きい印象です。

物語のラスト34ページは全部で132コマ、1ページ平均で3.88コマです。なんと、現代の週刊少年ジャンプの平均値よりずっと少ない平均コマ数で、逆に驚きました。

ちなみに1ページ平均でちょうど3段割でした。

手塚治虫先生の伝説の初期作品『新宝島』は、現在のワイド4コマに近いコマ割りになっていて、ときどき3コマや2コマのページが入る形で、ラスト34ページは119コマ、平均3.5コマでした。

 

■神様はコマ数が増えた■

ちなみに、『新宝島』は昭和22年(1947年)の発表ですから、2年ほどで手塚治虫先生の漫画の表現が『メトロポリス』で大きく変わっていますが、平均コマ数はさほどでもありません。

ところが、同じ手塚治虫先生の『どろろ』の最終話「ぬえの巻」では、扉ページを除くと34ページで213コマあります。最終話なので大ゴマも多いのですが、1ページ平均6.264コマでした。こちらは昭和44年(1969年)に最終話発表。

34ページは『どろろ』に合わせた数字です。

後期の代表作『ブラック・ジャック』の最終話「オペの順番」は24ページで174コマ、1ページ平均7.25コマ。発表は昭和58年(1983年)です。手塚先生、一貫してコマ数が増えています。

 

■コマ数が減った劇画家■

小池一夫原作・小島剛夕作画の『子連れ狼』の第1話は30ページで168コマ、1ページ平均5.6コマ。これが最終話の後編は30ページで84コマ、1ページ平均2.8コマに激減しています。

紙芝居作家から漫画家になった小島剛夕先生は、初期は4段割のコマ割りで、途中から3段割が多くなった印象です。平均コマ数が増えた手塚先生と、逆に減った小島先生の対比が興味深いです。

ちなみに手塚先生と小島先生、生年月日がまったく同じです。

興味深いのは、小池一夫先生門下の劇画村塾出身者。3段割がメインの漫画家が多いようです。これは、テキストに小島先生の作品を使うことが多かったためではないか……とこれは鍋島雅治先生の推測。

 

■右3と左4の段組み術■

ライターとして、漫画の入門書などの原案を執筆することが多い飯塚裕之さんの著書では、右ページを3段割に、左ページを4段割にした方が良いとアドバイスされています。

入門百科+ プロの技全公開!まんが家入門

両ページを3段割や4段割にすると、コマ割りが単調になりがちですから一理ある指摘です(右4左3もあり)。そういえば、ある編集部の公式Twitterで、見開き三段割のコマ割りに疑義を呈して話題になっていました。

編集部の感覚的なものを上手く言語化できていなくて、誤解や混乱を呼ぶ内容だなぁと思ったものです。現実的には、読む順番がわからないメチャクチャなコマ割りが、投稿者の初期状態です。

一歩レベルアップした状態が、見開き三段割のコマ割りです。

そこからさらに演出として、コマ割りに変化を付けるために大ゴマや変形コマを加えていくのですが、担当が付いていない段階でそこまで思いが至るのは、かなりの素質が必要です。

 

■演出は後回しにしよう■

大ゴマや変形ゴマは、ただなんとなくとか、バランスを観て適当に入れられるものではないです。でも多くの編集者は、どのタイミングで大きくするか・変形させるか・裁ち切りにするか、理論がない。

「迫力を出したいコマを大きくするだけじゃん」という人もいますが、ちばてつや先生は大事なシーンはあえて小さなコマで描いてるという、森川ジョージ先生の指摘もありました。

どこを大きくして、どこを小さくするかの法則性や理論がないと、なんでもかんでもコマを大きくしたり、全ページを裁ち切りにしたり、顔アップが続く暑苦しい作品になってしまいがちです。

コマ割りの演出ができるのは、実は特別な才能です。

演出は後回しにして、先ずはアニメの絵コンテ的にネームを切り、その上で演出を検討していた方がいいよというのが、このコラムで一貫して主張していることです。

 

基本ができていないのに、応用を求めてもしょうがないです。

まずは見開き三段割のオーソドックスなコマ割りで、内容がちゃんと読者に伝わることが優先です。派手なコマ割り、平凡に如かず。ということで、次回は演出としてのコマの詰めかたの基本をチョビっと。


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