第01回:ネームを描く前に考えるべきこと

第01回:ネームを描く前に考えるべきこと

By MANZEMI

漫画ネーム

■解らないところが解らない■

‪「ネームの描き方がわかりません」と、投稿者から相談されることがよくあります。こういう質問には、困ってしまいます。一口にネームの描き方といっても、その意味するところは人それぞれですから。

 ・ネームという言葉の意味することが解らないのか?
 ・単純に画力の不足を言っているのか?
 ・内容の発想力が不足しているのか?
 ・発想はあるが構成が解らないのか?
 ・構成技術はあるが演出が理解できないのか?
 ・演出はできるがコマ割りができないのか?
 ・そもそも漫画全般の理解が不足しているのか?

思いつくままに列挙してみましたが、まだまだありそうです。逆に言えば、具体的に解らないポイントを整理して質問できていない人は、「解らないところが解らない」のです。

実は、多くの投稿者はこの状態なのです。

‪漫画をまったく読んだことがないならともかく、自己流でも漫画やネームを描いてみたことがあるのなら、その経験を分析して、まず自分が何を解っていないのか知る必要があります。

 

■料理に例えてみると■

‪これが料理、例えばカレーライスを作ろうというのなら、材料が解らないのか、調理の仕方が解らないのか、味付けが解らないのか、そこから確かめる必要がありますよね?

‪材料にしても、ニンジン・ジャガイモ・タマネギは良いとして、豚肉か牛肉かシーフードを入れるのかで、調理方法が変わってきます。豚肉を使う場合、バラ肉を使うのかモモ肉を使うのかヒレ肉を使うのか。

‪さらに同じ肉でも、どの大きさや切り方をするかで、調理方法も味付けも変わってきます。なので、まずはオーソドックスな豚バラ肉を使ったカレーライスを一度作ってみる必要があります。

その経験値を元に、解っている点と解っていない点を洗い出します。

どうすればもっと美味しくなるのか、違う食材に挑戦するには何が必要なのか、味付けはどんなバリエーションができるのか……と、チェック・ポイントを明確にする作業が必要です。

 

■チェック・ポイント■

この『チェック・ポイント』という考え方は、とても重要です。例えば落語家の立川談春師匠があるラジオ番組で、どうやったら落語が上手くなるかと問われて、こう答えています。

「上手いヤツは最初から上手い、下手なヤツは稽古してもダメ」

厳しいですね。厳しいですが、別に努力を否定されてるわけではないです。談春師匠は言葉の意味するところを敷衍(詳しく説明すること)されています。例えば立川流では、弟子は最初に『道灌』という演目を教わります。

師匠が三回、目の前で演じてくれますので丸暗記し、稽古を重ねます。ちゃんと演じられるようになったと思ったら、師匠の前で演じて、人前で演じて良いレベルかどうかをチェックしてもらいます。

早い弟子だと三日後には「できましたので、上げてください(チェックと上演許可)」と来るそうです。ところが談春師匠、一番簡単な演目を習得するのに、3カ月もかかったとか。

 

■名人を3ヶ月で完コピ■

今、落語界で最もチケットが入手しづらいと言われる立川談春師匠が、なぜ簡単な前座の最初の演目の習得に、そんなにかかったのでしょう? 3日で覚える落語家との差は何だったのでしょうか? 談春師匠によればそれは……

チェック・ポイントが3個しかない人間と、200個ある人間の差。

例えば、チェック・ポイントが3個しかない人間なら、内容を丸暗記する・大きな声でしゃべる・しぐさを間違わないぐらいしかありません。でも、200個もあったら……。

毀誉褒貶はあれど、名人の立川談志師匠の、ブレスの位置まで完コピしようとしたら、3カ月でも足りないでしょう。エリック・クラプトンの演奏を、3カ月で完コピできますか?

ギターをやってる人なら、そんなのムリだと言うでしょう。やっていない人でも、その難しさは想像できるでしょう。ところが、漫画の場合はそう思わない人が多いのです。

■漫画は簡単なのか?■

漫画なんて、チャチャっとコツを教われば、すぐに描けると思っていませんか? 唐沢なをき先生は親戚のオバサンたちから、谷岡ヤスジみたいな漫画なら簡単でしょ……と言われたそうです。

若い人には谷岡ヤスジ先生を知らない人もいるでしょうけれど、多くの同業者が天才と呼んだ方です(1999年没)。そこまで極端でなくても、絵がそこそこ描ければ漫画家になれると思ってる人は多いようで。

でも、上手い絵をコマ割りして並べれば、面白い漫画になるわけではありません。ご本人も画力のなさをギャグにされている西原理恵子先生は、絵は下手そうに見えても、とてつもなく高いネーム力をお持ちです。

そもそも、西原先生は絵が下手ではありません。

知り合いのアニメーターで、絵は上手く、脚本を作る能力も絵コンテを切る能力も一定以上あるけれど、漫画のコマ割りをどうやったらいいのか解らないという人が実際にいました。

ネームを作る能力=ネーム力は、一筋縄ではいかない難物です。講座の内容のネタバレにならないレベルで、ネームについてもう少し語って、投稿者の誤解を解きほぐしていきたいと思います。

その前に、次回は漫画家という職業を客観的に眺めるためのデータをチョット見ましょうか。