【新人漫画家向け】絵柄を他の作品に寄せてと言われたら
目次
質問箱:絵柄を他の作品に寄せてと言われたら
※質問箱に寄せられた質問を、別途アーカイブしておきます。また随時、加筆修正を加えていきます。
昭和30年代からある問題
藤子不二雄先生たちが伝説のトキワ荘で漫画を描いていた時代から、存在する問題ですね。トキワ荘に入居していたある漫画家は、編集者からこの作家のような絵柄で描けと言われ、筆を折ったとか……。
なぜこのようなことを言う編集者が何十年も絶えないか、理由は二つあるように思います。
ひとつは、編集者の好みの絵柄を押し付けているパターン。この場合は、編集者自身が作品の内容ではなく絵柄に反応する『パブロフの犬』状態になっているのに、気づいていないので。
とある整形外科にかかったタレントは全員、そこの院長の好みの顔になる問題と同じですね。
柳の下にドジョウが3匹
もうひとつは、売れている作家の絵柄を模倣させようとするパターン。
名編集者でも生涯打率は2割ぐらいと、小学館の元編集長がラジオ番組で語っておられましたが。名言ですね。逆に言えば、8割は外すということ。凡庸な編集者なら、9割外すでしょう。
自分に自信がない編集者や、漫画を表層的に理解している編集者は、売れている作品に似せることで、安心が欲しいのでしょう。
出版業界には「柳の下にドジョウは3匹いる」という言葉があります。ヒットした作品や雑誌が出ると、二番煎じどころか、三番煎じ、四番煎じまで便乗ヒットすると言われています。
パナソニックも松下電器時代、「マネした電気」なんて揶揄されていましたが。日本の場合、リスクを避けて無難に無難に、ヒット作の後追いをする文化があります。
二番煎じ三番煎じの文化
平凡→明星、週刊マガジン&サンデー→週刊ジャンプ、平凡パンチ→週刊プレイボーイ、an・an→non-no……などなど、こういった模倣商法は繰り返されてきました。
写真週刊誌が流行れば4誌も5誌も創刊され、レディース誌が流行ればこれまた何十誌も創刊されたり。
しかも大手出版社の後発の模倣誌が、元祖より売れたりしますから。出版文化自体がそのような、売れてるものを模倣して無難に売れようとする、文化があります。
そうなると編集者もまた、既に売れている作家や作品の模倣を、作家にも求めるようになってしまいますね。
失敗を恐れ無難を求める
また、今までにない絵柄の作品で失敗した場合は批判が大きいですが。売れてるものの模倣だと、失敗してそこまで批判されないという奇妙な現象があります。
野球でも、強硬策でアウトと、送りバント失敗でアウトだと、同じアウトでも後者の方が批判が少ない――という事例がありますからね。
作家の対処方法は。そのような編集者と仕事をしても、自分自身のプラスになる部分が少ないと判断して、距離を置くというのも一つの手でしょう。筆を折るというのは、性急な判断に思います。
いろんな出版社に持ち込んで、自分の作品の使いどころを見つけてくれる編集者との出会いを模索する。そちらが建設的ではないかと。
不易流行の匙加減が大切
もうひとつは、仕事と割り切って編集者の注文に寄せる、という対処の仕方もあります。
例えば漫画原作のアニメの場合、原画マンの癖が強く出たら、お仕事になりませんから。老舗の料亭ほど、頑固に味を守っているのではなく、時代の変化に合わせているという面もあります。
ただしそれは、老舗のうどん屋がラーメン屋に商売替えするわけではないように。あくまでもうどん屋として、味付けを変える。でも同時に、変えていけない部分は変えずに、しっかり守る。
つまり、自分の中で妥協できない部分とできる部分を、きちんと線引きするのも大事でしょう。
ギブ&テイクに持ち込む
編集者が言ってるのが、砂糖を多めにしたらとか昆布だしを試してみたら……というレベルの要求なのか、うどん屋を辞めてラーメン屋になるというレベルの要求なのか。
感情的に全否定したり、逆に全部言いなりになって全肯定では、作家の側にも問題があるように思います。
自分の中で基準をきちんと作り、編集者の側の要求を受け入れつつ、向こうの要求以上のものを生み出すというのが、理想といえば理想なのですが。でも、理想通りできることなんてそんなにありませんからね。先日もそれで、炎上した編集者がいましたが……。
「そこは受け入れるから、ここはそちらが受け入れてほしい」と、ギブ&テイクの状態に持ち込むのも、プロの作家には必要な駆け引きです。
担当編集者とじっくり話し合って、擦り合わせるというのが大事という、平凡な話になってしまいますが、それが王道かと。
https://mond.how/ja/manzemi_bot
この質問箱では、もう一歩踏み込んだ回答を心がけていますので、質問をお待ちしています。
※本記事はMANZEMI講師のnote記事を承諾を得て転載したものです。