不易流行を考える

不易流行を考える

By MANZEMI

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Twitterを見ていたら、アニメ作品の翻訳で知られる兼光ダニエル真氏の、こんなツイートが流れてきました。自分も編集者、あるいは物書きとして、表現の新しさとか古さとは何か、多少なりとも考える立場ですからね。新しさを追えば古くなるのも早い、という逆説。コレは実感があります。

■作品の生命力とは?■

オードリー・ヘップバーンの吹き替えや『銀河鉄道999』のメーテル役などで知られる声優の池田昌子さんがかつてNHKの番組で、テレビ黎明期はコンテンツ不足で、アメリカのTVドラマを大量に流し、そのために声優という職業が確立されたと語っておられました。 その時のテレビのスタッフも、時流に乗った言葉ではなく、オーソドックスな表現を心がけたとか。結果、それから何十年経ってから視聴しても、意味が通用する……といった内容のことを、語っておられました。

例えば、映画。5年前のアイドル映画とか見ますと、服装とか髪型や言葉遣いなどのファッションとか、ものすごく古く感じて、キツイことがあります。ところが、以前リバイバル上映で観た高畑勲監督の『太陽の王子 ホルスの大冒険』は、1968年7月21日公開と、自分が生まれる前の作品でしたが、なんの問題なく鑑賞できました。これは、1939年に公開された『風と共に去りぬ』もそうで、83年も前の作品でも、吹き替えは1975年の版でしたが、なんの問題もなく最後まで楽しめました。

■異世界転生モノの元祖■

漫画界でも、作品に新しさを求める編集者は多いです。これはお笑い演芸などもそうですが。でも自分は、新しさを求めることに懐疑的です。少なくとも創作って、過去に流行ったものが忘れられた頃に、装いを変えてまた世に出し、それが再評価されてるようなもので、新しさとは違う部分があるように思います。その装いの変化はしょせん変化であって、それを新しさと呼ぶのは、本質を見誤るような気がして。創作とは、古いものを新しく見せる手練手管、という人もいます。

例えば現在、ラノベの世界で大流行の異世界転生モノも、『トム・ソーヤーの冒険』で知られるマーク・トゥエインが既に書いています。1889年発表の『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』がそれ。 自分は亀山竜樹訳『アーサー王とあった男』で中学生の時に出会いましたが。一人称で、軽妙な文体。近代科学が無双し、魔法と迷信を打ちのめす爽快さ。そしてラストの驚きの展開に、言葉を失い……。 現在のラノベの原型や様式が詰め込まれ、既に完成されています。最初の作品にして、最高傑作。平安時代後期に成立した後期王朝物語の一つである浜松中納言物語も、異世界モノの原型といえます。

■新しい革袋の古いワイン■

そこらへんがわかれば、自分が好きな作品が影響を受けた、ルーツとなる作品や作家を調べ、さらに作家が何を変え何を変えていないかを考察すれば、不易(変わらないもの)と流行(移ろうもの)の本質が見えるかもしれません。そういえば、黒澤明監督が山田洋次監督と対談した時、自分の作品の各シーンがどの作品の影響を受けているか、全部言えると語っておられたとか。ルーカス監督やスピルバーグ監督、コッポラ監督らに影響を与え、彼らの作品でもパクられまくっている巨匠も、全部がオリジナルではないという事実。

例えば東映のヤクザ映画と言われますが、『仁義なき戦い』の大ヒットを受け、ライバルの松竹も大映も東宝も時流に乗って、ヤクザ映画を作りました。ところが、それらの映画会社の作品は、東映ほどヒットしませんでした。それは東映が、現代のリアルなヤクザを描いてるように見えて、作品のモチーフを忠臣蔵に置いたからだとか。 仮名手本忠臣蔵の初演から120年ぐらい過ぎた幕末の頃すでに、忠臣蔵とか古いよと若者に言われていたのに、さらに120年ほど経っても、まだ王道にいる。 面白さの本質は変わらない、証拠でしょう。

■古きをたずね新しきを知る

横山光輝先生が後期の代表作である『三国志』の連載を始めようと思ったのは、小学生の甥子さんが小説の三国志を読んで面白いと語っているのを聞いたのが、きっかけとか。自分が子供の頃読んで面白かったものが、今の子供が読んでも面白いなら、それは時代を超えた普遍的な面白さがあるのだろうと、連載を決意されたとか。 もちろんそこに、漫画という新しい表現と媒体を使い、横山先生なりの表現の工夫が加えられ、傑作になったのですが。

初期のイギリスの小説家であるダニエル・デフォーが『ロビンソン・クルーソーの生涯と奇しくも驚くべき冒険』を発表したのは1719年、日本では徳川吉宗が八代将軍に就任してまだ3年目、いろは四十八組の町火消が生まれた頃です。 でも、現在の『くまクマ熊ベアー』や『Dr.ストーン』などにも、工夫していろんな物を作り出す試行錯誤の面白さや、その影響を感じませんか? そもそも、さいとう・たかを先生の傑作『サバイバル』も、同書の影響が大きいでしょう。温故知新とは、そういうことかと。

■ガルパンの古さと新しさ■

一世を風靡した『ガールズアンドパンツァー』も、一見すると美少女と戦車の、斬新な組み合わせですが。ところが作品を分析すると、実は水島新司先生の『ドカベン』やちばあきお先生の『キャプテン』といった、転校してきた実力者が、ボロボロだった部活を立て直し、ついに勝利するという、少年誌の王道中の王道を踏襲していますね。ここらへんは、MANZEMIの七月鏡一先生の講座で、精緻な分析がなされていましたが。逆に、ガルパンの表層を真似た『荒野のコトブキ飛行隊』は、残念ながら……。

自分が尊敬するある編集長、美少女でまくりエロ満載の雑誌を担当していたのですが、その人が密かに中心に据えていた雑誌の方針は〝友情・努力・勝利〟でした。ギョッとするけれど、よく読むと確かにその方針は各作品に貫徹されていました。まさに、仁義なき戦いの中心に忠臣蔵があったように。ここらへんは、作家の飯の種の部分もあるので、詳細は誤魔化して書いていますが。

■ということで宣伝です■

兼光ダニエル真氏の、言葉の新しさ・古さの話とはちょっとズレますが、言葉と表現に興味を持たれた方は、MANZEMI編集部のコチラの文章読本をどうぞ。電子書籍版もペーパーバック版もあります。篁千夏や深町麗市と、自分がチョロチョロと書いています。どこを誰が担当したかは、適当に想像してください。なお、Amazonが勝手に英文法などに分類していますが、あくまでも日本語の表現について、ニュアンスを伝える技術書です。いわゆる、文章読本の範疇に入りますかね。

MANZEMI文章表現講座①:ニュアンスを伝える・感じる・創る』 春由舎
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言葉に新しさを求めない。そういう意味では、自分は岡本綺堂の文体を手本にしています。元々、母が好きで、自分も読んでいたのですが。綺堂の文体を、まるで昨日脱稿したように瑞々しいと評したのは、宮部みゆき先生でしたか。自分が好きな小説家が、綺堂の文体を高く評価していたことが、嬉しかったですね。1916年に脱稿した『半七捕物帳』が今でも読める。正字正仮名から新字新仮名へ変えてはありますが、100年前の文章とは思えない鮮度。たぶん、100年後も古びていないでしょう。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

 

※本記事はMANZEMI講師のnote記事を承諾を得て転載したものです。
※出典:https://note.com/mogura2001/n/na33cf0fa56e4


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