取材と経験値について

取材と経験値について

『左ききのエレン』のかっぴー先生が、作品作りと取材について書かれています。有料記事ですが、とても興味深い指摘なので、シェアした上で、自分の経験的な部分について、補足的に。取材方法自体は、鍋島雅治先生の取材方法の講座という形で一昨年にMANZEMIでお特別講座を開いた、非常に有益な実践法法がありますし。またそれは、勝手に公開していいものではありませんから。

フィクションに必要な「取材」について
https://note.com/nora_ito/n/nf7b07265b6d3

取材をするのは大事ですが、取材する側にもある程度の素地というか、取材を活かせる土台がないと、厳しいわけで。かっぴー先生が指摘される、知らない状態→人より知ってる状態→知ってる状態→実践した状態 という状況の先に、実践で1万時間の蓄積のある状態、さらに10万時間の蓄積がある状態へと、ステップアップしていく訳ですが。これって、なかなか難しい部分がありますけどね。

■1万時間の法則■

1万時間の法則、あるいは10万時間の法則と呼ばれるモノがありますが。自己流に解釈するなら、1万時間の蓄積は、人に教えられるレベル。10万時間の蓄積は、職業として一本立ちできるレベル。もちろん、新米教師などは教えながら、経験値を蓄積するわけですが。1万時間の蓄積には、1日2時間で週に3回だと、32年と3週間弱は必要になる計算です(2×3×52×32=9984)。

30歳から始めたら還暦過ぎちゃいます。1日3時間を毎日休みなしで9年と1ヶ月と19日掛かる計算。何かを積み上げるのって、コレぐらい大変ということです。自分の場合は、平直行師の下で23年やって、道場を開ける資格の紫帯(柔道だと3段から道場が開ける)もらったブラジリアン柔術が、正味1万時間ぐらいですかね。最近はすっかりサボり気味ですが。

10年と2カ月勤めた出版社の編集経験が、残業や休日出勤込みで2万時間ぐらい。まぁ、ボンヤリしてても時間だけは積み重なりますけどね。デビュー18年の原作者家業が、毎日ダラダラやってるので3万時間ぐらい。大学や専門学校や講座などで12年ほどになる、人に教える商売が5000時間ぐらいでしょうか。移動時間や待機時間は含まず。大学時代に打ち込んだウェイトトレが、最近はご無沙汰ですがこれまた5000時間ぐらい。

■知識と経験の軸と連鎖■

正味の時間だと、そんなもんかな? でもこういう経験値が、取材の土台になります。例えば、リクルート陸上部の元監督で、箱の駅伝では元祖山の神、マラソン中継の解説などでもお馴染みの金哲彦さんに取材したとき、自分には陸上の経験は学校の授業ぐらい、駅伝やマラソンの経験は皆無。でも、ウェイトトレで減量の経験から、ロング・スロー・ディスタンスとか、有酸素系の知識と経験はいちおうあったので、説明が端折れて助かると褒められたり。

これは他のスポーツでも同じです。ボディービルの場合、体脂肪が10%を切るような、過酷な減量をします。結果、栄養学にも詳しくなり、炭水化物・タンパク質・脂質などの含有量やカロリー計算やら、詳しくなります。それで料理に目覚めたりする人もいます。また、怪我やリハビリの経験から、先輩や後輩に鍼灸師や柔道整復師になったり、PNFストレッチやカイロプラクティックを学ぶ人もいます。自分も、人よりは知ってる状態です。

結果的に、ノーラン・ライアンの名著『ピッチャーズ・バイブル』とかも、かなり読み込みました。あれも、ウェイトトレーニングだけでなく、登板前の食事法法まで細かく言及されていて、ボディービルと重なる部分が大きいんです。で、自分は武術や格闘技も小学校の頃の剣道から始まって、大学時代は喧嘩藝骨法やったりしてましたから、スピードトレーニングやプライオメトリックなども読みあさったので、五輪選手クラスと普通に話せるわけです。

■1000時間でも武器になる■

ガキの頃から膨大に読んできた漫画と小説は、それぞれ1万時間ぐらいでしょうか? 人生は有限なので、ガキの頃から好きでやってたことって、なんであれ役に立つんですよね。歴史好きなので、NHKの『歴史への招待』のような教養番組とか、血肉になっていますし。鹿児島という土地柄、幕末や奈良時代の隼人の乱とか、古墳なども身近にありますし、年寄りの話は生きた教材ですから。

ちょっとは詳しいと言えるレベルって、1000時間ぐらいですかねぇ。酒飲みと食い道楽は、なんだかんだで、それぐらいかけてるかも。週に1回の酒飲みでも、30年続けると4時間×52週×30年で6240時間。思った以上に、時間をかけていますねぇ。物書きの場合、そういう経験値のあるものを軸に、取材するといいです。相手から一方的に聞くより、こっちにも提供できる知識と経験値ってm話が弾みますし。

さらに言えば鹿児島で生まれ育って18年、浪人して福岡に2年、大学で神奈川に2年と町田市に2年、就職して千葉に2年、関西での仕事で10年の経験も、方言を駆使する作品では、かなりプラスに働きます。京都は土地勘ができると、幕末明治の人の動きや流れが、ずいぶんリアリティを持ってきますし。

人生に潤いを与えるモノを楽しむ

ガキの頃見たアニメだと、『まんが日本昔ばなし』とか、10分ちょっとに作品ですが、これを1000本以上見てたのが、今では血肉です。Amazon Prime Videoで見られるヤツは全部見返して、170時間を3回ぐらいですから、500時間ぐらいでしょうか。これなどは、1万時間にはほど遠くても、効果絶大。作家や漫画家やライターは、全部の経験が無駄にならない、ありがたい商売です。

富野由悠季監督が、小学校の高学年の3年間と、中学時代の3年間と、合計6年間に好きだった物に、一生拘れとアドバイスされていますが。この年齢の1時間は100時間分の価値があります。未熟ゆえの新鮮さ、吸収量がありますから。ちなみに、フリーランスになってから、年に100〜200本の映画を、映画館で観るようにしています。レンタルだと集中力が落ちるので、心に残らない。これも18年で5000時間ぐらいでしょうか。

人生で悔いがあるとすれば、音楽はもうちょっと、向き合うべきだったなと。楽器のひとつも下手の横好きでもやってたら、違ったなぁと思います。絵は、プロの漫画家と技術を語れるぐらいは、やってますけど。けっきょく、好きでやってきたことが、思わぬ形で財産になる。そういうモノを、幾つ持っているか。これから積み重ねられるか。コレって、大事なことだと思います。思い立ったが吉日、さっそく始めましょう。

けっきょく、人生においては国語・数学・理科・社会・語学が基礎にあり、その上に美術・音楽・工作・体育・家庭科・技術といったものが、潤いを与えてくれるわけで。教養、なんていうと硬いイメージですが、ようは好きで探究したものは、すぐには役に立たなくても、土台として人間性を支えてくれるわけで。とりとめもない内容ですが、物書きを志す人の何かのお役に立てると、幸いです。

どっとはらい

※本記事はMANZEMI講師のnote記事を承諾を得て転載したものです。
※出典:https://note.com/mogura2001/n/n903a60417175


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