第08回:原因と結果を探ろう
■適材適所と因果関係■
前回のコラムを読んで、こう反論する大学や専門学校の講師、編集者も一定数いるでしょう。「プロットやシノプシスを作らせないと、いつまで経ってもネームが終わらない生徒がいるんです」と。
そういう生徒にプロットやシノプシスは本当に有効ですか?
100ページや200ページのネームを書いてなお、話にエンドマークを打てない投稿者は数多く見てきましたが、理由は幾つかあります。ひとつは、週刊少年誌の連載方式に影響を受けた作品作りがあるでしょう。
人間は、影響を受けた作品を無意識に模倣します。週刊少年誌が、良くも悪くもヒット作品の一大供給地である以上、その引っ張って引っ張って何十巻にもなってしまう作品作りを真似てしまうのは必然です。
そんな学生や投稿者に、プロットやシノプシスを作れと言っても、それこそ雲を掴むような話です。『ONE PIECE』や『ドラゴンボール』のプロットやシノプシスを作って、それを30ページの投稿作に仕立て直せますか?
■三幕で構成してみる■
そういう、超長期連載の悪影響を受けるタイプには、まずは良質な短編読み切りをたくさん読ませ、短編の面白さや作品の流れ、構造を無意識に染み込ませて、データベースを充実させないとダメでしょう。
脚本家で映画監督の三宅隆太氏が語っていましたが、映画は演劇などの長い歴史の影響から3幕構成になっていて、各幕の長さの比率は1対2対1になっているが、脚本家は無意識にその比率で書いてしまう、と。
幕というのは、演劇での一連の演技の一段落のこと。
場面が転換するときに幕が上がって幕が降りるまでのことが多いので、この呼び名があります。舞台の芝居では頻繁に幕が上がったり降りたりすると、観客の集中力が途切れるので、三幕構成が主流になりました。
映画では場面転換自体は頻繁に起きますので、フィルムがスタートして止まるまでをカットと呼び、幾つかのカットが集まってシーンになり、シーンが幾つか集まってシークエンスになります。文章の、文・段落・章に相当します。
■それは暗黙知の領域■
興味深いのは、三幕構成というのが、全体の尺に対しての比率であると言うこと。全体が100分で3幕が25分・50分・25の比率の作品もあれば、160分で40分・80分・40分の作品もあるということ。
私たちはつい、映画でも演劇でも始まって何分かしたら集中力が削がれてきて、幕の転換でリフレッシュしたくなると思いますが、そうではないのです。10分で場面転換が欲しくなる作品もあれば、50分の作品もあるということ。
では、なぜそんなことが起きるのでしょう?
それは、その作品に固有のリズムが、音楽のようにあるからです。ズンチャ・ズンチャの速いリズムか、ズンチャッチャッチャ・ズンチャッチャッチャの緩いリズムかで、全体のバランスや尺が変わってくるのと似ています。
■オチから逆算で創る■
話がズルズルと長引くタイプは、作品のオチがしっかり決まっていないことが多く、以前のコラムで書いたような「ほんで、オチは?」と言われるタイプなのですが、オチがなくてもリズム感が良い作品はあります。
それは、大きな意味でのオチはなくても、段落や賞を構成するパーツの中に、小さなオチが組み込まれていて、先に読み進める力を持っていたりするからです。なので、このタイプには大きなオチ、アイデアの指導が必要です。
小さなオチもなく、リズムがグチャグチャなネームは、本当に読んでいて辛くなります。こういう人にプロットやシノプシスを作って整理しろと言っても、そもそもまとめようがないのですから、指導としては不適格。
そういう人には先ず、短いスパンの中で作品を創る練習を指導しなくては。
ネーム講座でも2〜8ページ程度のショート・ストーリーから指導しています。
■4コマは才能が必要■
ついでに言えば、そこで4コマ漫画から指導するのは、実は失敗しやすいです。編集時代から現在まで、数多くのストーリー作家のデビューに立ち会ってきましたが、4コマ漫画はストーリー漫画とは明らかに異なる資質が必要です。
ベテラン漫画家で、作品構成を学ぶなら4コマ漫画が最適だと力説される方もいますが、それはだいたいストーリー漫画も4コマ漫画も描ける万能型の才能ある作家ですので、鵜呑みにしてはいけません。
いちおう、ストーリー漫画の応用で4コマ漫画を描く方法論はあります。
ですが、その前に2〜10コマぐらいとアバウトな枠組みの中で掌編を描き、そこでコマ割りの文法を学びつつ、作品の基本となるリズムを学ばないと、プロットやシノプシスと同じで、描けない人は描けません。
■巨匠に学ぶ作話方法■
さて、プロットやシノプシスを上手く書けない人のために、前回予告した方法について。やり方は簡単で、スマートフォンなどの録音機能を利用して、作品の登場人物のセリフを全部しゃべってしまうという方法です。
プロの漫画家でも、先ずは全部のセリフを書き出す人は多いです。
漫画の2ページは映画やアニメの1分に該当しますから、早ければ15分、遅くても1時間もあれば全部語れるはずです。もし1時間しゃべっても終わりが見えないなら、それは30ページの投稿作にするには長すぎます。
ちなみにこの方法、ちばてつや・あきお両先生の実弟で、ちば作品のほとんどの原作を手掛け、『風光る』などでも知られる七三太朗先生がレコーダーに原作を語り卸してちば先生に渡すという話から、ヒントを得ました。
さて、次回はこの『リニア録音ネーム技法』について、もうちょっとだけ解説します。この方法が有効でない人もいるでしょうけれど、試してみてください。その上で、自分のネームがまとまらない理由が、上で述べたことのどれかに該当しないか確認を。100分ほど語ったら良い結末ができた人は、もともと長編のリズムは持っているということです。