第04回:ネームの基本の基本
■ネームは片面だけ描く■
前回、ネームについて具体的に書きましたが、「見開き単位で絶対に描かないといけないのですか?」とか「裏に描いてもいけないんですか?」という質問を、いただきました。
もし本気で漫画家になろうとか、趣味としても真剣に取り組もうと思ったら、調べることも大切だとは思うのですが……小学生がここを読む可能性も考えて、ザックリ説明しますね。
まず、ネームは用紙の片側に描いてください。表にと書くと、どっちが用紙の表ですかと聞かれそうなので。なぜ裏側に描いてはいけないかと言えば、ネームは漫画の設計図ですから。
裏側にまでネームを描くと、裏側が透けて見えて読みづらいことが多いですし、編集との打合せや推敲の結果、修正を加えるときに、イロイロと面倒くさいことになります(詳細は後述します)。
また、ネーム用紙はコマ割りがしやすいように補助線などが印刷された専用のモノも市販されていますが、自分が描きやすいものでかまいません。コピー用紙でもかまいませんが、破れやすいモノは避けましょう。
■ネーム用紙の使い方■
用紙を横にして、見開き単位で描くのを推奨しますが、一枚の用紙に1ページでネームを切る(描く)プロの漫画家も一定数います。想定される掲載先が紙かWebかでも、そこは変わります。
自分で描きやすい方を選択してください。
ただ、雑誌や電子書籍での発表が前提なら、見開き単位で描いた方が、コマ割りのバランスを俯瞰(高い視点から見おろすこと)できるので便利です。また、演出も見開き単位で考えた方が便利です。
編集者に見せるときは、右上をクリップなどで止めて渡すのが良いでしょう。ステープラーで留めると、安定感は増しますが、複数ページを並べて検討するときに、かえって不便です。
例えば、作品の終盤のエピソードを思い切って前半に持ってくるとか、大胆な構成の見直しをする場合など、ステープラーで止めてあると指示が面倒ですし、ネーム用紙も破損しがちですから。
■各稿のネームを残す■
打合せの時は、手書きのネームを2部ずつコピーしておき、コピーしたモノを自分と編集者で検討しながら、修正点や検討する点を書き込んで、原本は残しておいた方が良いです。
打ち合わせでいったん、こういう形に修正してみようと決まっても、実際に修正してみたらかえって悪くなることはよくある話。そんなときのために、原本は残しておいた方が手間が減ります。
またコピーしたときに、セリフが端のギリギリに書いてあると、コピーした時の状況によっては見切れることもよくあります。上下左右の縁(へり)には、1センチ前後の余白を持たせましょう。
ネームひとつでも、イロイロと注意点があるでしょ?
ページ番号を振るのも忘れずに。できれば、各ページの下方、真ん中に書きましょう。右端や左端でも良いのですが、端っこはめくれて丸まったり、破れてちぎれたり、手脂でこすれて読みづらくなりがちです。
■ポストイット活用法■
打合せなどで修正が入る場合、その場合の修正方法はイロイロとあります。それぞれの作家さんが工夫していますので、いくつか紹介しますが、自分に合った方法を見つけるのが大事です。
部分的な修正の場合は、簡単な書き込みですます漫画家が多いのですが、大きな修正の場合は大型のポストイットを貼って、そこに修正案の絵やセリフを書き込む漫画家もいます。
付箋(ふせん)として生まれたポストイットは、現在はいろんな形や大きさのモノが発売されていますから、自分のネーム用紙やコマ割りの大きさに合わせて、最適なタイプを選びましょう。
ネーム用紙の6分の1ぐらいの大きさが便利です。
ポストイットで修正の利点は、はがしやすく、はがせば元の案をすぐに見ることができる点でしょうか。大きな文房具店がない地方在住の方は、Amazonや楽天でを利用しましょう。
■切り貼りネーム作成■
別な漫画家さんは、打ち合わせにネーム用紙に使っているコピー用紙と、ハサミとステープラーを用意していました。
打ち合わせで内容を検討し、そのまま使うコマは切り取って真っ白な紙を台紙にして、ステープラーで貼り付けていました。で、修正するコマは白い台紙に直接描き込みます。
前回のコラムで紹介した三段割のネーム用紙というのは、こういうやり方のネーム修正にも便利です。コマの上下の幅をネーム段階では統一しておくと、切り貼りがかなり楽になります。
実際の下書きでは、コマの上下幅は演出に併せて変化させます。
また、こういう使い方だと、ネーム用紙の裏にも描くのがダメな理由も、解りますよね? 裏まで描いてしまったら、切り貼りができません。ポストイットが増えすぎて、はがれやすくなります。
■書き込みの基準は?■
もちろん、手の早い漫画家さんだと、打ち合わせのその場でガンガン書き起こす人もいます。そこは、自分に合った方法がベストですから、試行錯誤して見つけるのが重要です。
最近の編集者では、下書き並みに表情や背景を描き込んでいないと、打合せができないタイプが増えているようです。ですが、それはコマ割りの文法が解っていないからです。
デキる編集者はコマ割り線と吹き出しとセリフさえあれば、打合せが可能です。
実際、吹き出しとセリフと枠線だけのネームを、打合せ用としてTwitterにアップしていた作家さんもいましたし、特殊なことではないです。自分も編集者時代、そういうネームで打ち合わせは普通でした。
そこまで極端でなくても、例えば “野間美由紀 ネーム” で画像検索すれば、野間美由紀先生のネームを見ることができます。コレぐらいの簡単な書き込みでも充分です。
■想像力の翼を鍛える■
ついでに、 “高橋留美子 ネーム” で検索すれば、高橋留美子先生の『うる星やつら』や『犬夜叉』のネームも拝見できます。かなり描き込んでありますが、下書きに使えるクオリティでしょう。
実際、週刊誌の連載作家は、時間短縮のためにネームを拡大コピーして、トレース台を使ってそのまま下書きに使う人もいます。ここら辺は、連載の形態にも左右されますので、注意が必要です。
逆に言えば、高橋留美子先生以上の書き込みをネームに求める編集者は、ちょっと想像力に問題があります。落語やラジオドラマを数多く聞いて、想像力を鍛える地道な努力をしてほしいものです。
ネーム講座に参加すれば、一発解決ですが(宣伝)。
当講座のOB・OGでもあるプロ作家たちが、編集者にこそネーム講座を受けて欲しいというのは、編集の側がコマ割りの文法が解っていないと、作家の負担が増えて無駄が増えるからという側面もあります。
基礎の基礎を書いてたら、あっという間にページが埋まってしまいました。できれば、今回書いた内容は、試行錯誤で見つけて欲しいレベルです。
次回は、具体的なコマ割りの基本的なことを書く予定です。