「ぼくはきみがすきだ」だけで説明する作文攻略法
放置していた記事をちゃんと書くシリーズ。Twitter上で書いたことのまとめと、加筆をば。まぁ、Amazonのレビューで文章がわかりづらいと酷評される程度の物書きですので、何かの参考になれば……ぐらいの内容でございます。
■どこから手をつけるか?■
発端はこちら、たらればさんのツイート。ちょうど、芦辺拓先生の小説講座が始まっていて、自分にはタイムリーな話題でした。さっそく、リプライを書きました。
若いライターさんから「文章がうまくなるにはどうしたらいいですか」と相談されるたび、「目標とする書き手の文章を筆写すると思います」と答えてます。やってみて一番わかるのは、句読点の位置と、開く漢字の使い方。
「僕は君が好きだ」と「ぼくは、きみがすきだ。」は、まったく違う描写でしょう。— たられば (@tarareba722) March 6, 2020
こちらがリプライ。
句読点・開き・選択・接続詞、ですかね順番的には。
「僕は、君が好きだ」自分を強調
「僕は君が、好きだ」好きを強調「ぼくはきみがすきだ」開き
「ボクはキミが好きだ」仮名選択「でもボクは、キミが好きだ」逆説
「ボクもまた、キミが好きだ」並列
「ところで、ボクはキミが好きだ」転換— 喜多野土竜 ⋈ (@mogura2001) March 6, 2020
以下のツイートが好評だったので、ちょっとだけまとめて、加筆をば。ライターと小説家では求められる文章の上手さが微妙に違いますし、小説家と脚本家でも違います。本当はもっとイロイロありますが、書き出すと切りが無いです。なので、文章が上手いってどういうことかという部分を、ザックリ初歩的なところから。
■句読点の置き位置■
まずは、句読点の置き位置。これを変えると、文章の強調したい点が変わってきます。
あ、ちなみに句点が「。」で読点が「、」です。
こういうのは、3つの文例を比較すると、違いが解りやすいでしょう。
→僕は、君が好きだ。
→僕は君が、好きだ。
前者は、「他の誰でもない、自分があなたを好きなんだ」という、主体は誰かを強調しています。
後者は、「嫌いでもないし憎んでもいない、好きなんだ」って感情の部分を強調しています。
日本ではできるだけ句点のない一続きの文章を有り難がる傾向がありますが……あんがい読みづらいですよね? この文章も読点無しで書いていますがそういう文章では別のテクニックを知っていないと冗長でノッペリした息継ぎができない文章になってしまいます。
■漢字を開くと仮名の選択■
「開く」というのは、漢字を平仮名にすることを言います。新聞出版業界の用語ですが、こういうのがポロッと出てくるのが、たらればさんが偽編集者出ない証拠。ネットの世界では成りすましの編集者が多いですが、業界は専門用語の固まりなので、すぐバレます。ちなみに、バレるというのは落語業界の隠語、符牒だったそうですが。では例文を2つ並べて比較。
ぼくはきみがすきだ。
イメージが、だいぶ違いますね。平仮名にすると、文章が柔らかい感じになります。逆に言えば漢字にするとかたい、生硬な文章に感じます。
また、平仮名にすると幼稚な感じも加わります。ちなみに、平仮名の表現を漢字に代えることを「閉じる」と呼びます。
閑話:この漢字と平仮名の作用を最大限に生かしたのが、ダニエル・キイスの名作『アルジャーノンに花束を』の、稲葉由紀(稲葉明雄)訳や小尾芙佐訳だったりします。松任谷由実さんも号泣した名作です。名作ですが、未読の方は是非ご一読を。
日本語には、漢字・ひらがな・カタカナ3種類があり、外国人の学習者にはそれがハードルなのですが、同時に芳醇な作品世界を生み出しています。なにしろ1000年も前に女流作家が大長編小説や軽妙なエッセイや自分の愛欲の苦悩を日記形式で書いて、なおかつ評価されてる国なんて、人類史的にも稀有です。閑話休題
漢字にするか平仮名にするかだけではなく、カタカナという選択肢もありますから、こっちも比較してみましょう。
ボクはキミが好きだ。
この「僕」という言葉は、かの吉田松陰が使い、友人や門弟も使うようになって広まったそうですが。70年代かその前ぐらいから、カタカナのボクとかキミとか、人称にカタカナを使うのが、若者言葉の用法として登場します。弓月光先生の『ボクの婚約者』なんて、あの時代では新しいタイトルでしたね。
僕には他にも、公僕とか僕者の意味もありますし、「君」にはアナタという意味と主君の意味もありますから。カタカナを人称に使うのは、明海大学の井上史雄先生が言うところの、明晰化のひとつでしょうね。
漢字を使うかカタカナを使うか、そこは書く人のセンスが問われる部分もあるのですが、ニュアンスが一番伝わることが大事。
「ってゆ〜かァ、シブヤってチョーやばくネ?」
「って言うか、渋谷って超矢場くね?」
では、ニュアンスが伝わらなくなってますよね。
■組み合わせてみる■
せっかくなので、句読点の技術と漢字と仮名の選択とを、組み合わせてみましょう。技術は単品で使っても良いですが、複合させても、より表現が広がります。
ボクはキミが、好きだ。
だいぶ違いますよね? ただ、この複合するという技術は、ちょっと厄介でもあります。1個1個の使い方は理解できても、複合した途端に、混乱する人がいます。
どうも、ここら辺は発達障害児やその境界線にいる人の教育方法とも、関わってくるようなので。ここで混乱する人は、ムリに複合せずパスしても良いでしょう。
※本記事はMANZEMI講師のnote記事を承諾を得て転載したものです。
※出典:https://note.com/mogura2001/n/n232d102ee788