神形ばかをさん
受講しようと思ったきっかけを教えてください。
以前は感覚で作品づくりをするのが当然と考えていたのですが、そうしていると、途中から先の展開を描けずに足踏みしてしまったり、想定と仕上がりとの差に愕然とするなど、歯痒い感覚に陥っていました。そんな折、Twitter(現X)でたまたま講座の存在を知りました。「理屈で作れるように」がウリの漫画講座は実に珍しいように感じましたし、何より本来理屈家である自分の性にも合っていると思い、申し込みました。
また、その頃大学生だった私にとっては、週一回の短期集中講座で、大学の授業との折り合いを考える必要もなく、費用も専門学校に比べると破格で、アルバイトのシフトを少し増やす程度で賄えたことも決め手でした。
講座の中で印象に残っていることを教えてください。
一番印象的だったのは、講師の喜多野先生が示してくださった、漫画家志望者としての道のお話です。要約すると、以下のような内容です。
「漫画家の世界は、ハッキリ言ってしまえば才能の世界である。独学で100点満点を越えて、120点の作品を生み出してしまう天才があちこちにいる。我々のような天才ではない人間が、120点の作品を生み出すのは至難の業だ。だが天才たちは、感覚的に偉業をなしてしまうことも多く、本人の中で理論化されていないが故に、ときに60点程の出来になることも少なくない。ならば我々が、理論と努力によって恒常的に90点の作品を作れるようになればどうだろうか。押し均すと、平均は同じ90点として、天才と同じ土俵に立つことができるようになるのではなかろうか。この講座が目指すのはそういった道である。」
正直、シビアな話だなと思いつつも、現実と向き合った職人気質な姿勢が実にプロだなと感動し、痺れました。
学んだことは実際に現場でどのように活かされていますか?
例えば、商業作家になった今でも私は、作品づくりの過程で「よくわからないけどなんか変な気がする」という漠然とした違和感に苛まれることが、時たまあるのです。ですがネーム講座で徹底的に学んだ体系的な理論と技術により、そういう問題に直面しても、意識して俯瞰的な視点から作品を見つめ、順序立てて問題点を洗い出し、解決策を見出すすべが身につきました。
更には、教わったことをベースに自分なりの方法論を組み立てることで、今では以前よりも効率的な作品制作ができています。またこうしてロジカルな考えが身についたからこそ、日々の担当編集さんとの打ち合わせも建設的に進み、二人三脚で作品づくりに打ち込めています。講座で教わったことは創作者としての技術面のみならず、職業人としての、私自身の強みにもなりました。
講師の印象について教えてください。
講師の喜多野土竜先生は、「1を尋ねると10も20ものことを教えてくださる方」という印象です。編集者・作家としての豊富なプロとしての経験と、とにかく幅広い知識から、いつも本質をついた答えをくださいます。中には素人には掴みづらい「秘伝」的な技術もあるのですが、不思議なことに、2作、3作と経験を重ねた後になってから受講時のノートを読み返し、そこで初めて「先生の言っていたあれはこういうことだったのか」と気がつくことも多いのです。