第03回:ネーム制作とコマ割り

第03回:ネーム制作とコマ割り

By mogura

漫画ネーム

■コマが割れない人■

さて、3回目にして技術的な話をちょこっとします。どうやったらネームが描けるか、というのはケースバイケースで、簡単には答えられないというのを前提として、よくあるパターンについて。

コマ割りについて第1回で、コマ割りができないアニメーターの話をしました。でもこの人、逆にアニメの絵コンテは作成することができる、ということでした。ここ、重要です。試験に出ます。

ネームが描けないなら、コンテを描けば良いではないか。

何やら「パンがなければ菓子を食せば良いではないか」と語ったとされるマリー・アントワネットみたいな話ですが(ちなみにコレは彼女のものではなく、ルソーの著書『告白』に、ある大公夫人の言葉として登場)。

 

■ネームと絵コンテ■

絵コンテというのは、アニメーションで実際に制作する前に作る、だいたいの流れを絵にした表のことです。ただし、映画やドラマ、CMとかでも使用することも多いです。

漫画のネームに当たる作業ですが、アニメーターで絵コンテは描けるのにコマ割りが解らないというのは、実は全体のシーンの絵に浮かぶけれど、それをコマ割りに落とし込むのが難しいという技術的な問題である場合が多いようです。

その場合、アニメーターの脳裏にはテレビや映画の画面としての、四角い画像は浮かんでいるということです。では、何ができないかと言えば、横長のコマはともかく、一段に2コマ入る絵をどう入れるかが解らない。

上のイラストだと、青色で示したコマの部分の処理で悩んでいるということが洗い出せました。投稿3作以内にデビューしちゃうタイプは、そもそもそこに悩まずスラスラ描けてしまいます。

でもコレ、特殊な技能だと思ってください。

 

■得手不得手はある■

では、イメージがそもそも浮かばない人についてはどうするべきでしょうか? それは才能がないってことだから諦めなさい……とは言いません。

なぜなら、筆者自身が編集になった当初は、浮かばないタイプだったので。

では、打合せが下手だったかと言えばそんなこともなかったから、話はややこしいです。学生時代に出版社や編集プロダクションでアルバイトしてたのかと思われるぐらい、コマ割りの対案は上手いとベテラン作家に褒められていました。

ただそこについて語り出すと、このコラム30回分ぐらいかかってしまうので、取りあえずパスです、はい。先ずはイメージは浮かぶけれど、コマ割りに落とし込むのが難しい人について。

一段に複数のコマを割ったり、縦長のコマをどのタイミングで入れるか解らない人は、そもそもコマを細かく割らない形で、ネームを作ってしまう方法から入るようにしています。

 

■三段割ネーム技法■

自分が推奨してるのは、まさにアニメーション用のコンテ用紙を使って、ネームの初稿を切る(描く)という手法です。コンテ用紙は、検索すればいろいろなタイプが無料でダウンロードできます。

【絵コンテのテンプレートを無償ダウンロードできるサイトまとめ】

絵コンテ用紙をそのまま使っても良いですが、自分が個人的に推奨しているのは、漫画の基準版面(製版の際に基準となる縦270ミリ×横180ミリの大きさ)を3分割して、コマとコマの上下の間隔を10ミリ空けた、ワイド3コマと呼ばれるスタイルです。

このスタイルだと、各コマは縦80ミリ×横180ミリで、比率が2.25になります。

この比率は、シネスコ(CinemaScope)と呼ばれる、映画のスクリーン(銀幕)の縦横比率2.35に非常に近いのです。ちなみに、テレビの画面は縦横比率(アスペクト比)が3対4になります。

3対4はピタゴラスの三角形の比率で、対角線が5の長さになるのでシンプルで良いと、かのエジソンが採用したとか。9対16はワイドと呼ばれ、テレビドラマやアニメの比率として比較的新しい比率で、YouTubeなどもこの比率。

※上の三段割ネーム用紙は印刷用解像度なので、ダウンロードして使用してもかまいません(加工・再配布は禁止です)。

 

■小さい紙でネーム■

とはいえ、現実には原稿の原寸サイズでネームを制作する人は少数派です(そのまま下書き代わりとして使う漫画家もいますが)。なので、自分は下記のようなネーム用紙を使うことを推奨しています。

B5サイズかA4サイズの用紙を横にして二つ折りにして、本の見開き状態で左右ページを本番に合わせて、ネームを描いていきます。一段に複数のコマを入れたり、縦長のコマは、取りあえず考えません。

この方式が良いのは、B5サイズの用紙を二つ折りにすると、ヤングジャンプやヤングマガジン、アフタヌーンなどの青年誌系の雑誌の、単行本の大きさと同じになるからです。

単行本になって縮小されたときに、見づらくないバランスでネームを切る。

縮小されて印刷された状態を意識すると、雑誌でもバランスが良くなることが多いのです。原稿用紙の大きさに振り回されて、細かくコマを割る投稿者って、意外に多いのです。

 

■ネームの後に演出■

最後までネームが描き上がったら、そこからコマ割りを整える作業に入ります。ソレは演出と呼ばれる作業に近くなるので、ネームを切る作業とは分けた方が、投稿者には有効なことが多いです。

逆に言えば、才能のある漫画家というのは、映画やアニメでは脚本家とコンテマンと演出家が分業していることを一人で、しかも同時進行でやっているということになります。

別にコレは漫画が映画やアニメよりレベルが高いとか低いとかの話をしているのではありません。

それぞれの創作形式や文化が違うと言うだけで、優劣の話ではありません。さいとう・たかを先生のように映画やアニメのように細かく分業される人もいます。

また、漫画における打ち合わせとは、編集者が演出のアドバイスをしている側面もあります。もちろん、編集者の役割も構成やアイデア出しなど多岐にわたるわけですが。

では、この三段割技法を、どうやって漫画のコマ割りに落とし込んでいくのか? 勘の良い方は既にピンときてるかも知れませんが、初心者向けに基礎的な解説を次回からやります。

 

なぜ三段割を推奨するのか、歴史的由来も含めて解説しますので、興味のある人はお楽しみに。